みなさん,こんにちは
おかしょです.
古典制御工学では様々な安定判別方法がありますが,そのうちの一つにナイキスト線図があります.
ナイキスト線図は大学の試験や大学院の入試でも出題されることがあるほど,古典制御では重要な意味を持ちます.
この記事を読むと以下のようなことがわかる・できるようになります.
- ナイキスト線図とは
- ナイキスト線図の書き方
- ナイキスト線図の読み方
この記事を読む前に
ナイキスト線図を書く時は安定判別を行いたいシステムの伝達関数を基にします
伝達関数について詳しく知らないという方は,以下の記事で解説しているのでそちらを先に読んでおくことをおすすめします.
ナイキスト線図とは
まず,ナイキスト線図とは何なのか解説します.
ナイキスト線図とは閉ループ系の安定判別に用いられる図のことを言います.(閉ループや回ループについては後程解説します)
ナイキスト線図があれば,閉ループ系の極がいくつ右半平面にあるのか,どれくらいの安定性を有するのかを定量的に求めることができます.
また,これが最も大きな特徴で,ナイキスト線図を使えば開ループ系の特性のみから閉ループ系の安定性を調べることができます.
事前に必要な知識
ナイキスト線図を描くうえで知っておかなけらばならないことがあります.それが以下です.
閉ループ系の極は特性方程式の零点と一致する.
開ループ系の極は特性方程式の極に一致する.
以下では,上記のそれぞれについて解説します.
閉ループと開ループについて
先程から出ている閉ループと開ループについて解説します.
制御工学では,制御器と制御対象の関係を示すためにブロック線図を用います.閉ループと言うのは,以下のようなブロック線図が閉じたシステムのことを言います.
つまり,閉ループとはフィードバックされたシステム全体のことを言います.
反対に開ループと言うのは閉じていない,開いたシステムのことを言います.
先程のブロック線図で言うと,青い四角で囲った部分を開ループと言います.
このときの閉ループ伝達関数は以下のようになります.
\[
閉ループ=\frac{G}{1+GC} \tag{1}
\]
開ループ伝達関数は以下のようになります.
\[
開ループ=GC \tag{2}
\]
この開ループと閉ループの関係性を利用して,ナイキスト線図は開ループの特性のみで描いて閉ループの特性を見ることができます.このとき利用する,両者の関係性について以下で解説審査う.
閉ループ系や開ループ系の極と零点の関係
それぞれの極や零点の関係について調べます.
先程ブロック線図で制御対象の伝達関数を
\[
G(s)=\frac{b_n s^n+b_{n-1} s^{n-1}+ \cdots + b_0}{s^m+a_{m-1} s^{m-1}+ \cdots + a_0} \tag{3}
\]
として,制御器の伝達関数を
\[
C(s)=\frac{d_l s^l+d_{l-1} s^{l-1}+ \cdots + d_0}{s^k+c_{k-1} s^{k-1}+ \cdots + c_0} \tag{4}
\]
とします.ここで,/(k,\ l,\ m,\ n\)はどれも1より大きい整数とします.
これを用いて閉ループの伝達関数を求めると,式(1)より以下のようになります.
\[
閉ループ=\frac{\frac{b_n s^n+b_{n-1} s^{n-1}+ \cdots + b_0}{s^m+a_{m-1} s^{m-1}+ \cdots + a_0}}{1+\frac{b_n s^n+b_{n-1} s^{n-1}+ \cdots + b_0}{s^m+a_{m-1} s^{m-1}+ \cdots + a_0}\frac{d_l s^l+d_{l-1} s^{l-1}+ \cdots + d_0}{s^k+c_{k-1} s^{k-1}+ \cdots + c_0}} \tag{5}
\]
同様に,開ループの伝達関数は式(2)より以下のようになります.
\[
開ループ=\frac{b_n s^n+b_{n-1} s^{n-1}+ \cdots + b_0}{s^m+a_{m-1} s^{m-1}+ \cdots + a_0}\frac{d_l s^l+d_{l-1} s^{l-1}+ \cdots + d_0}{s^k+c_{k-1} s^{k-1}+ \cdots + c_0} \tag{6}
\]
以上のことから,式(5)からは閉ループ系の極は特性方程式\((1+GC)\)の零点と一致することがわかります.また,式(6)からは開ループ系の極は特性方程式\((1+GC)\)の極と一致することがわかります.
つまり,閉ループ系の安定性を表す極について知るには零点について調べれば良いと言えます.
ここで,特性方程式\((1+GC)\)は開ループ伝達関数\((GC)\)に1を加えただけなので,開ループシステムのみ考えれば良いことがわかります.
ナイキスト線図の考え方
ここからはナイキスト線図を書く時の考え方について解説します.
ナイキスト線図は複素平面上で描かれます.s平面とも呼ばれます.
システムが安定であるには極が左半平面になければなりません.このシステムの安定性の境界線は虚軸であることがわかります.
ナイキスト線図においてもこの境界線を使用します.
sを不安定領域,つまり右半平面上で変化させていき,その時の開ループ伝達関数の写像のことをナイキスト線図といいます.写像というのは,変数を変化させた時に描かれる図のことを言います.
このときのsは原点を中心とした,半径が\(\infty\)の半円となる.
先程も言いましたが,閉ループの特性方程式\((1+GC)\)は開ループ伝達関数\((GC)\)に1を加えただけなので,開ループ伝達関数を用いてナイキスト線図を描き,原点をずらして\((-1,\ 0)\)として考えればOKです.
また,虚軸上に開ループ系の極がある場合はその部分を避けてsは変化します.
この説明だけではわからないと思うので,以下では具体例を用いて実際にナイキスト線図を書いていきます.
ナイキスト線図を描く手順
例えば,開ループ伝達関数が以下のような1次の伝達関数があったとします.
\[
G(s) = \frac{1}{s+1} \tag{7}
\]
このときのナイキスト線図を描いていきます.
ナイキスト線図の描く手順は以下のようになります.
- \(s=0\)の時
- \(s=j\omega\)の時(虚軸上にある時)
- \(s\)が半円上にある時
この順に開ループ伝達関数の写像を描くことでナイキスト線図を描くことができます.
\(s=0\)の時
まずは\(s=0\)の時の写像を求めます.
これは単純に,開ループ伝達関数に\(s=0\)を代入するだけです.
つまり,開ループ伝達関数が式(7)で与えられていた場合,その写像\(F(s)\)は以下のようになります.
\[
G(0) = 1 \tag{8}
\]
\(s=j\omega\)の時(虚軸上にある時)
次に虚軸上にある時を考えます.
これは周波数伝達関数を考えることと同じになります.
このとき,sは半径が\(\infty\)だから\(\omega→\pm \infty\)として考えます.
このとき,周波数伝達関数\(G(j\omega)\)を以下のように極表示して考えます.
\[
G(j\omega) = |G(j\omega)|e^{j \angle G(j\omega)} \tag{9}
\]
つまり,ゲイン\(|G(j\omega)|\)と位相\(\angle G(j\omega)\)を求めて,\(\omega→\pm \infty\)の極限をとることで図を描くことができます.
今回の例の場合,周波数伝達関数は
\[
G(j\omega) =\frac{1}{1+j\omega} \tag{10}
\]
となり,ゲイン\(|G(j\omega)|\)と位相\(\angle G(j\omega)\)は以下のようになります.
\[
|G(j\omega)| =\frac{1}{\sqrt{1+\omega^2}} \tag{11}
\]
\[
\angle G(j\omega) =-tan^{-1} \omega \tag{12}
\]
これらをそれぞれ\(\omega→\pm \infty\)の極限をとります.
\[
|G(\pm j\infty)| =0 \tag{13}
\]
\[
\angle G(\pm j\infty) =\mp \frac{\pi}{2} \tag{14}
\]
このことから\(\omega→+\infty\)でも\(\omega→-\infty\)でも原点に収束することがわかります.
また,位相\(\angle G(j\omega)\)から\(\omega→+\infty\)の時は\(-\frac{\pi}{2}\)の方向から,\(\omega→-\infty\)の時は\(+\frac{\pi}{2}\)の方向から原点に収束していくことがわかります.
\(s\)が半円上にある時
最後に半径が\(\infty\)の半円上に\(s\)が存在するときを考えます.
このときsは極形式で以下のように表すことができます.
\[
s = re^{j \phi} \tag{15}
\]
ここで,\(\phi\)は半円を表すので\(-\frac{\pi}{2}\leq \phi\leq +\frac{\pi}{2}\)となります.
これを開ループ伝達関数に代入します.
\[
G(s) = \frac{1}{re^{j \phi}+1} \tag{16}
\]
ここで,\(r=\infty\)であるから
\[
G(s) = 0 \tag{17}
\]
となり,原点に収束します.
ナイキスト線図
以上の結果をまとめると
- \(s=0\)では1に写像される
- \(s=j\omega\)では原点に\(\mp \frac{\pi}{2}\)の方向から収束する
- \(s=re^{j\phi}\)では原点に写像される.
となります.これを図で描くと以下のようになります.
ナイキストの安定解析
最後に求められたナイキスト線図から閉ループ系の安定解析を行います.
この記事の最初の方でも言いましたが,閉ループの安定解析では特性方程式の零点について調べればよかったです.
ここで,特性方程式の零点の数と極の数には以下のような関係式が成り立ちます.
\[
N=Z-P \tag{18}
\]
Zは右半平面にある特性方程式の零点の数,Pは右半平面にある特性方程式の極の数,Nはナイキスト線図が原点の周りを回転する回数を表します.
閉ループシステムの安定性を示すにはZが0でなければなりません.
特性方程式の極は開ループの極と一致するので,Pは右半平面にある開ループの極の数ということになります.
また,Nについてはナイキスト線図は開ループ伝達関数を基に描いているので,原点がずれていることに注意してください.特性方程式の原点は開ループに1を足したものなので,ナイキスト線図の\(-1,\ 0\)が原点ということになります.
今回の例の場合は,Pは右半平面に極はないので0,Nはナイキスト線図は\(-1,\ 0\)の周りを周回していないのでこちらも0となります.
よって,式(18)よりZも0になるので閉ループシステムの極には不安定となるものはないということができます.
まとめ
この記事ではナイキスト線図の考え方から描き方,安定解析の仕方までを解説しました.
ナイキスト線図は難易度が高いように思われがちですが,手順に沿って図を描いていけばそこまで難しいものではありません.
試験でも対応できるようにいろいろな伝達関数に対してナイキスト線図を書いて,閉ループ系の安定性を確かめてみると良いと思います.
続けて読む
安定解析の方法にはナイキスト線図の他にもさまざまな方法があります.
以下の記事ではラウスフルビッツの安定判別について解説しています.
ラウスフルビッツの安定判別も古典制御で試験に出たりするほど重要な判別法なので,ぜひ続けて読んでみてください.
Twitterでは記事の更新情報や活動の進捗などをつぶやいているので気が向いたらフォローしてください.
それでは最後まで読んでいただきありがとうございました.
コメント