みなさん,こんにちは
おかしょです.
古典制御工学ではシステムの応答を周波数領域で解析します.
解析する方法はさまざまありますが,この記事ではベクトル軌跡について解説していきます.
この記事を読むと以下のようなことがわかる・できるようになります.
- ベクトル軌跡とは何か
- ベクトル軌跡の書き方
この記事を読む前に
ベクトル軌跡の解説では伝達関数を使用します.
伝達関数がよくわからない方は以下の記事を先に読んでおくことをおすすめします.
ベクトル軌跡とは
ベクトル軌跡とは,古典制御工学におけるシステムの周波数解析法の一種です.
他の周波数解析法にはボード線図やナイキスト線図などがあります.
このベクトル軌跡では,伝達関数からゲインと位相を求めます.
ゲインというのは伝達関数の大きさのことで,位相というのは入力に対して出力がどれだけ遅れるのかを表します.
ベクトル軌跡ではゲインは原点からの距離,位相はベクトルの角度として表現されます.
ボード線図はゲイン線図と位相線図の二つを見なければシステムの解析ができませんでしたが,ベクトル軌跡では一つの図だけでシステムの解析が行えます.
ベクトル軌跡の書き方
伝達関数が与えられていてベクトル軌跡を描くには,以下の手順をこなす必要があります.
- 伝達関数を\(s=j\omega\)とする
- システムのゲインを求める
- システムの位相を求める
- \(\omega=0\)の時のプロットをする
- \(\omega=\infty\)の時のプロットをする
- \(\omega=0~\infty\)の時のプロットをする
ゲインの求め方
上に示した手順2のゲインの求め方について説明します.
ゲインというのは伝達関数G(s)の大きさのことだと述べました.
手順1で\(s=j\omega\)として得られた伝達関数\(G(j\omega)\)の大きさを求めるには以下のような計算をします.
\begin{eqnarray}
ゲイン&=& |G(j\omega)|\\
&=& \sqrt{R^{2}(j\omega) +I^{2}(j\omega)}
\end{eqnarray}
ここで,\(R(j\omega)\)は伝達関数\(G(j\omega)\)の実部,\(I(j\omega)\)は虚部を表しています.
位相の求め方
手順3で求める位相を求めるには以下のような計算をします.
\begin{eqnarray}
位相&=& \angle G(j\omega)\\
&=& \tan^{-1} \frac{I(j\omega}{R(j\omega)}
\end{eqnarray}
それほど難しい計算は必要ないので,ゲインも位相も簡単に求めることができます.
ベクトル軌跡の練習
ここからはベクトル軌跡の書き方を具体的な例を用いて解説します.
1次遅れ系
以下のような1次遅れ系の伝達関数が与えられていたとします.
$$ G(s) = \frac{K}{Ts+1} $$
今回は\(T=1,\ K=1\)とした時のベクトル軌跡を描きます.
まずは\(s=j\omega\)を代入します.
\begin{eqnarray}
G(j\omega) &=& \frac{1}{j\omega+1}\\
&=& \frac{1-j\omega}{1+\omega^2}
\end{eqnarray}
次にゲインと位相を求めます.
\begin{eqnarray}
|G(j\omega)| &=& \sqrt{\left(\frac{1}{1+\omega^2}\right)^2+\left(\frac{-\omega}{1+\omega^2}\right)^2}\\
&=& \frac{\sqrt{1+\omega^2}}{1+\omega^2}\\
&=& \frac{1}{\sqrt{1+\omega^2}}
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
\angle G(j\omega) &=& \tan^{-1} \frac{\frac{-\omega}{1+\omega^2}}{\frac{1}{1+\omega^2}}\\
&=& \tan^{-1} (-\omega)\\
&=& -\tan^{-1} \omega\\
\end{eqnarray}
ゲインと位相を求めることができたら,\(\omega\)にいろいろな値を代入して図形に書き込んでいきます.
まずは\(\omega=0\)の時のゲインと位相を求めます.
$$ |G(0)| = 1 $$
$$ \angle G(0) = 0 $$
以上のようになるので,原点からの距離が1,角度が0のところにプロットをすると左のようになります.
同じように\(\omega=\infty\)の時のゲインと位相を求めます.
$$ |G(0)| = 0 $$
$$ \angle G(0) = -90 $$
以上のようになるので,先程の図に書き加えると左のようになります.
このようにして\(\omega\)の値を変化させていき図に書き込んでいくと,以下のようなベクトル軌跡が得られます.
2次遅れ系
次は以下のような2次遅れ系の伝達関数のベクトル軌跡を描きます.
$$ G(s) = \frac{\omega_n^2}{s^2+2\zeta \omega_n s+\omega_n^2} $$
ここでは\(\zeta=\frac{1}{2},\ \omega_n = 1\)とします.
1次遅れ系の時と同様に\(s=j\omega\)を代入します.
\begin{eqnarray}
G(j\omega) &=& \frac{1}{-\omega^2+j\omega+1}\\
&=& \frac{1-\omega^2-j\omega}{(1-\omega^2)^2+\omega^2}
\end{eqnarray}
ゲインと位相を求めます.
\begin{eqnarray}
|G(j\omega)| &=& \sqrt{\left(\frac{1-\omega^2}{(1-\omega^2)^2+\omega^2}\right)^2+\left(\frac{-\omega}{(1-\omega^2)^2+\omega^2}\right)^2}\\
&=& \frac{\sqrt{(1-\omega^2)^2+\omega^2}}{(1-\omega^2)^2+\omega^2}\\
&=& \frac{1}{\sqrt{(1-\omega^2)^2+\omega^2}}
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
\angle G(j\omega) &=& \tan^{-1} \frac{\frac{-\omega}{(1-\omega^2)^2+\omega^2}}{\frac{1-\omega^2}{(1-\omega^2)^2+\omega^2}}\\
&=& \tan^{-1} \frac{-\omega}{1-\omega^2}\\
\end{eqnarray}
1次遅れ系と同じ手順でベクトル軌跡を描いていくと以下のようになります.
まとめ
この記事ではベクトル軌跡とは何か,描き方を解説しました.
ベクトル軌跡は伝達関数に\(s=j\omega\)を代入して周波数伝達関数として,ゲインと位相を求めることで描くことができます.
ベクトル軌跡は大学の授業や大学院の試験にも出題されることもあるので,この記事がベクトル軌跡の手助けになれば幸いです.
続けて読む
ベクトル軌跡のような周波数解析法にはボード線図というものもあります.
以下の記事ではボード線図について解説しているので興味のある方は読んでみてください.
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それでは最後まで読んでいただきありがとうございました.
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