行列で表記された微分方程式(状態方程式)の解き方

制御工学

みなさん,こんにちは
おかしょです.

微分方程式の中には行列で表されたものもあります.

制御工学では状態方程式がこれに当たります.

なので,その状態方程式を解く方法について解説していきます.

この記事を読むと以下のようなことがわかる・できるようになります.

  • 行列表記の微分方程式の解き方
  • 状態方程式の解き方

 

この記事を読む前に

この記事では微分方程式を解く際に逆ラプラス変換を行います.

この記事のすべてを理解するには以下の記事を先に読んでおくことをおすすめします.

 

行列で表記された微分方程式

先程も述べたように,ここで解説する微分方程式は以下のような状態方程式を対象とします.

$$ \dot{x}(t) = Ax(t)+bu(t) $$

ここで,xは状態量,Aはシステム行列,bは入力行列,uは入力を表します.

このuは制御入力を表していて,制御器によってさまざまな形を持ちます.

この記事の目標は行列表記の微分方程式を解くことなので,右辺第2項を0とした同次微分方程式を解くことにします.

この状態方程式は現代制御工学で取り扱われるもので,古典制御工学で扱うような伝達関数などは周波数領域で定義されますが,状態方程式は時間領域で表現されます.

この微分方程式を解くには,古典制御工学でよく用いられるラプラス変換の知識が必要になるので,古典制御工学についてもしっかり理解するようにしてください.

古典制御工学について学習したい方は以下の記事で紹介している参考書がおすすめです.

 

微分方程式を解く手順

微分方程式を解く手順は以下のようになっています.

\(e^{At}\)を求める.

これだけです.

これを求めるだけで,同時微分方程式の解を求めることができます.

以下では,なぜこの工程だけで解を求めることができるのかを解説します.

 

微分方程式の解法

まず,今回考えている同次微分方程式の解を以下のように置きます.

$$ x(t) = \alpha_0 +\alpha_1 t +\alpha_2 t^2 +\alpha_3 t^3 +… $$

ここで,xは状態量(ベクトル)なので\(\alpha\)もベクトルであることに気を付けてください.

これを同次微分方程式に代入すると

$$ \alpha_1 +\alpha_2 t +\alpha_3 t^2 +… = A(\alpha_0+ \alpha_1 t +\alpha_2 t^2 +\alpha_3 t^3 +…) $$

となります.これを各係数ごとに両辺を比較すると以下のようになります.

\begin{eqnarray}
\alpha_1 &=& A \alpha_0\\
2 \alpha_2 &=& A \alpha_1\\
3 \alpha_3 &=& A \alpha_2\\
& \vdots &
\end{eqnarray}

これを先程の同時微分方程式の解に代入します.

\begin{eqnarray}
x(t) &=& \alpha_0 +\alpha_1 t +\alpha_2 t^2 +\alpha_3 t^3 +… \\
&=& \alpha_0 + A\alpha_0 t+ \frac{1}{2}A^2 \alpha_0 t^2 +\frac{1}{3}\frac{1}{2}A^3 \alpha_0 t^3 +…\\
&=& \left( I+ At+ \frac{1}{2!}A^2 t^2 +\frac{1}{3!}A^3 t^3 +… \right) \alpha_0\\
\end{eqnarray}

Aや\(\alpha\)は行列なので,かける順番は元の式から変えてはいけないので注意してください.

ここで,初期値を考えます.初期値はt=0の時なので

$$ x(0) = \alpha_0 $$

となります.

従って,\(\alpha_0 = x(0)\)なので

$$ x(t) = \left( I+ At+ \frac{1}{2!}A^2 t^2 +\frac{1}{3!}A^3 t^3 +… \right) x(0) $$

となります.

この式の中でかっこで囲われた部分に注目します.
これは指数関数をテーラー展開した式と同じであることがわかります.

指数関数のテーラー展開

$$ e^{At} = I+ At+ \frac{1}{2!}A^2 t^2 +\frac{1}{3!}A^3 t^3 +… $$

従って,同時微分方程式の解は以下のようになります.

$$ x(t) = e^{At} x(0) $$

つまり,この解を得るには\(e^{At}\)を求めれば良いということがわかります.

ここで,問題となるのが\(e^{At}\)の求め方です.

指数関数のテーラー展開は無限に続いてしまうので,求めることができません.

そこで,\(e^{At}\)をラプラス変換してみます.

$$ \mathcal{L} \left[e^{At}\right] = (sI-A)^{-1} $$

この\(sI-A\)は計算で簡単に求めることができそうです.

そして,これを先程とは反対に逆ラプラス変換すれば元の\(e^{At}\)が求められます.

$$ \mathcal{L}^{-1} \left[(sI-A)^{-1}\right] = e^{At} $$

 

練習問題で解き方の確認

練習問題として,以下のような同次微分方程式を解きます.

$$ \dot{x}(t) = Ax $$

\begin{eqnarray}
A =
\begin{bmatrix}
-1 & -2 \\
2 & -6
\end{bmatrix}
\end{eqnarray}

まずは\(sI-A\)を求めます.

\begin{eqnarray}
sI-A &=&
\begin{bmatrix}
s & 0 \\
0 & s
\end{bmatrix}

\begin{bmatrix}
-1 & -2 \\
2 & -6
\end{bmatrix}\\
&=&
\begin{bmatrix}
s+1 & 2 \\
-2 & s+6
\end{bmatrix}
\end{eqnarray}

これの逆行列を求めます.

\begin{eqnarray}
(sI-A)^{-1} &=&\frac{1}{(s+1)(s+6)-(-2)2}
\begin{bmatrix}
s+6 & -2 \\
2 & s+1
\end{bmatrix}\\
&=&\frac{1}{(s+2)(s+5)}
\begin{bmatrix}
s+6 & -2 \\
2 & s+1
\end{bmatrix}\\
&=&
\begin{bmatrix}
\frac{s+6}{(s+2)(s+5)} & -\frac{2}{(s+2)(s+5)} \\
\frac{2}{(s+2)(s+5)} & \frac{s+1}{(s+2)(s+5)}
\end{bmatrix}\\
&=&
\begin{bmatrix}
\frac{4}{3} \frac{1}{s+2}-\frac{1}{3} \frac{1}{s+5} & -\frac{2}{3} \frac{1}{s+2}+\frac{2}{3} \frac{1}{s+5} \\
\frac{2}{3} \frac{1}{s+2}-\frac{2}{3} \frac{1}{s+5} & -\frac{1}{3} \frac{1}{s+2}+\frac{4}{3} \frac{1}{s+5}
\end{bmatrix}\\
\end{eqnarray}

上式の最後では部分分数分解を行っています.
部分分数分解について知りたい方はこちらを参照してください.

これを逆ラプラス変換して\(e^{At}\)を求めます.

\begin{eqnarray}
e^{At} &=& \mathcal{L}^{-1} \left[(sI-A)^{-1}\right] \\
&=& \mathcal{L}^{-1} \left[
\begin{bmatrix}
\frac{4}{3} \frac{1}{s+2}-\frac{1}{3} \frac{1}{s+5} & -\frac{2}{3} \frac{1}{s+2}+\frac{2}{3} \frac{1}{s+5} \\
\frac{2}{3} \frac{1}{s+2}-\frac{2}{3} \frac{1}{s+5} & -\frac{1}{3} \frac{1}{s+2}+\frac{4}{3} \frac{1}{s+5}
\end{bmatrix}
\right] \\
&=&
\begin{bmatrix}
\frac{4}{3} e^{-2t}-\frac{1}{3} e^{-5t} & -\frac{2}{3} e^{-2t}+\frac{2}{3} e^{-5t} \\
\frac{2}{3} e^{-2t}-\frac{2}{3} e^{-5t} & -\frac{1}{3} e^{-2t}+\frac{4}{3} e^{-5t}
\end{bmatrix}
\end{eqnarray}

最後に初期値を\(x(0) = 1\)とすると,同次微分方程式の解は以下のように求められます.

\begin{eqnarray}
x(t) &=& e^{At} x(0)\\
&=& \begin{bmatrix}
\frac{4}{3} e^{-2t}-\frac{1}{3} e^{-5t} & -\frac{2}{3} e^{-2t}+\frac{2}{3} e^{-5t} \\
\frac{2}{3} e^{-2t}-\frac{2}{3} e^{-5t} & -\frac{1}{3} e^{-2t}+\frac{4}{3} e^{-5t}
\end{bmatrix}
\end{eqnarray}

 

まとめ

この記事では行列で表記された同次微分方程式の解法を解説しました.

現代制御工学では古典制御工学のような伝達関数ではなく,状態方程式でシステムを表現します.

このようにすることで,多数の状態量と入力を考慮した制御器の設計が可能となります.

 

続けて読む

この記事では行列表記された微分方程式を解きました.

以下の記事では行列ではない表記の仕方の微分方程式を解く方法を今回と同じようにラプラス変換を利用して解説しています.
興味のある方は読んでみてください.


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それでは最後まで読んでいただきありがとうございました.

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