みなさん,こんにちは
おかしょです.
制御工学の参考書などを読んでいると,解説の中で1次遅れ系のシステムを例にとることが良くあります.ただ,この1次遅れ系って具体的にどのようなシステムなのかを解説している参考書は少ないです.
また,伝達関数で表されることが多いのですが,伝達関数だといまいちイメージがしにくいので微分方程式に変換する方法なども解説します.
この記事を読むと以下のようなことがわかる・できるようになります.
- 1次遅れ系のシステムの特徴
- 1次遅れ系の微分方程式
- 1次遅れ系のボード線図
この記事を読む前に
この記事では伝達関数で表された1次遅れ系のシステムを微分方程式に変換するために,逆ラプラス変換を利用します.逆ラプラス変換については以下の記事で解説しているので,まだ逆ラプラス変換のやり方などを知らない方は以下の記事を先に読んでおくことをおすすめします.
1遅れ系とは・特徴など
まず,1次遅れ系の伝達関数は以下のような形をしています
\begin{eqnarray}
G(s) = \frac{K}{Ts+1} \tag{1}
\end{eqnarray}
ここで,\(K\)は定常ゲイン,\(T\)は時定数と呼ばれます.
制御工学の参考書などを見ても『1次遅れ系とは数式でこのように表せるシステムのことを言う.』みたいなことしか書かれていません.果たしてこの数式を見ただけで,1次遅れ系がどのようなシステムかわかる人はいるのでしょうか.制御工学をある程度学習した人はわかって当然かもしれませんが,制御工学を学び始めたばかり,もしくはこれから学習し始めようと思っている方にはわからないと思います.
この1次遅れ系で表されるシステムの例として,ドローンなどのプロペラを回転させるモーターが挙げられます.
ご存知だと思いますが,モーターは電気を流すことで回転をします.ただ,電気をかけてすぐに回転数がMAXになるわけではありません.回転数がMAXになるまでには必ず時間がかかります.この回転数がMAXになってしまえばあとはずっと回転数をMAXのまま維持することができます.これをグラフで表すと以下のようになります.
このようなシステムを数式で表すと式(1)のような形になります.実際にモーターを回転させて確認したい方は,そのやり方を以下の記事で解説しているので参考にして下さい.
1次遅れ系の微分方程式
式(1)で表されるような1次遅れ系のシステムを数値シミュレーションするには,MATLABであれば,「Simulink」で『Transfer fcnブロック』を用いれば簡単にできます.しかし,この場合は初期値は0としてシミュレーションを行うことになってしまいます.
これは伝達関数の特徴で,伝達関数は初期値が0の時のシステムの入出力の比を表すので,これは仕方がないことです.しかし,数値シミュレーションでは初期値も考慮して行いたい場合もあるので初期値を考慮できるようにします.
初期値を考慮するには,上の伝達関数を逆ラプラス変換します.
\begin{eqnarray}
\frac{Y(s)}{U(s)} &=& \frac{K}{Ts+1}\\
Y(Ts+1) &=& KU\\
T\dot{y}+y &=& Ku\\
\dot{y} &=& -\frac{1}{T}y+\frac{K}{T}u \tag{2}
\end{eqnarray}
上式が1次遅れ系を時間領域で表した場合の式になります.
この式を使って数値シミュレーションをすることで,初期値を考慮した1次遅れ系のシミュレーションをすることができるようになります.
1次遅れ系のボード線図
最後に,この1次遅れ系のシステムを解析するためにボード線図を利用します.ボード線図の書き方については以下の記事で解説しています.
時定数を変化させた場合
まずは時定数\(t\)を変化させた場合のボード線図を見てみましょう.
上の図では\(K=1\)とした時のボード線図です.
上の図を見るとわかるように時定数\(T\)を大きくしていくと,ゲイン線図・位相線図ともに図は左に移動していることがわかります.反対に\(T\)を小さくしていくと右に移動しています.
このことから時定数\(T\)は位相に大きく影響することがわかる.これは位相を求める際に定常ゲイン\(K\)が関係しないことから考えても正しいことがわかります.
つまり,時定数を大きな値にすると低周波数の入力でも遅れさせるため,応答が収束するまでに時間がかかるようになります.反対に時定数を小さな値にすると高周波数の入力でも遅れることなく追従することが可能になります.
ゲイン線図を見ると時定数を大きくすると低周波数の入力もゲインが小さくなっています.つまり高周波数の入力の影響を除去したい場合はそれに応じた時定数を設定することで,高周波数の入力の影響をカットすることができるようになります.これはセンサーノイズなどの高周波数の外乱を除去したいときに非常に有効です.ただ,時定数の設定によっては位相が遅くなってしまうので注意が必要です.
定常ゲインを変化させた場合
次に定常ゲイン\(K\)について変化させた場合,ボード線図は以下のようになります.
位相を求める際は時定数\(T\)のみで算出できるので,定常ゲイン\(K\)は位相に対しては何の影響も与えません.これは上の位相線図を見ても明らかです.
ゲインは周波数に関係なく\(K\)を大きくすると大きくなることがわかります.このことから入力に対して振幅を大きくしたければ,定常ゲイン\(K\)の値を大きくすればよいことがわかります.
まとめ
この記事では1次遅れ系のシステムについて解説し,微分方程式の導出,ボード線図からわかる特徴などを解説しました.
1次遅れ系を一言で言うと,入力に対して反応が遅くて振動的な応答にはならないシステムです.
続けて読む
今回解説した1次遅れ系の微分方程式(式(2))を用いれば数値シミュレーションをすることができます.
以下の記事ではその微分方程式を用いてPID制御をしています.ぜひ続けて読んでみてください.
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それでは最後まで読んでいただきありがとうございました.
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